黒部通信 VOL.8

日電歩道の見所

 露天風呂のある阿曽原小屋を午前6時30分出発する。登山者の出発は朝早い。我々が一番遅い出発である。昨日は週末でこの小さな小屋に100名近く宿泊していた。スタッフも大忙しである。私は昨日の酒がまだ残っていて頭痛がする。午前中は最悪のコンディションになりそである。小屋から仙人までは約40分ほどかかる。
 日電歩道は、仙人ダムから黒部ダムまでの黒部峡谷沿いに作られた登山道で、約8時間の道のりである。朝の冷気を吸っているせいか二日酔いも大分和らいできた。仙人には関西電力の宿舎がある。近代的な鉄筋コンクリートの建物で峡谷に面している。高熱随道から温泉を引いているので、快適な宿舎といえよう。名前は人見寮。戦前日本電力の測量技師の人見長之助の名前からとったという。
 私はかつて厳冬期に日本画の田渕敏夫先生と取材で泊まった事がある。雪が降り積もると切り立った稜線には雪庇ができそれが落下してホウ雪崩が起きる。夜中に雪崩による地響きがし、加えてあまりの寒さにほとんど眠れなかった。厳冬期の黒部の厳しさを肌で味わったのである。この周辺は雪崩の密集地帯である。
 丁度この寮の直下の峡谷から飛竜峡の始まりである。狭まった花崗岩の峡谷は激流に長い年月をかけて削られ突き出た岩盤のほとんど丸みを帯びている。この景勝の地に黒部第3発電所のダムが建設されたのは昭和13年のことである。電力需要が増大し発電が国家管理体制となりやがて太平洋戦争に突入するまさにその時である。
 人跡未踏のこの地に発電施設を建設するという自然に挑む人間の挑戦と大自然が作り出す自然災害との熾烈な戦いは我々の創造も、絶するほどである。
仙人の駅に立つと雄々しい雲切の滝が見える。それに同化しているのが黒三のダムである。風雨雪にさらされながら見事に同化している。
 平成6年にがこの地を訪れた東京藝術大学日本画科教授の手塚雄二氏の飛竜峡のデッサンと600号の見事な大作がセレネ美術館に常設展示されている。雲切の滝は現在制作中である。


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