黒部通信 VOL.1
秋の水平歩道を行く
(10月31日快晴)
 
 黒部峡谷の紅葉を求めて秋の水平歩道を歩く。例年10月31日は紅葉は既に終わっていて登山道も滑りやすく危険を伴う頃である。今年は異常気象のせいか安全に歩く事ができた。宇奈月から日帰りコースを設定したので、関西電力の専用トロッコで、阿曾原まで行くことにした。この専用軌道は工事関係者などの専用トロッコなので関係者以外の一般の人は乗れない。
 阿曽原は日電歩道、水平歩道のコースの中間地点で登山客の宿泊基地で、宿泊できる山小屋がある。もちろんテント場もあり、加えて野趣溢れる露天風呂は大変人気がある。 温泉は単純泉で吉村昭氏の小説でお馴染みの「高熱隋道」からパイプで引いている。阿曽原小屋の主人の佐々木さんは、元富山県警山岳警備隊のメンバーで頼もしい山男で、登山者から最も信頼を受けている。今は宇奈月遭難対策協議会救助隊員として隊員の技術指導や救助活動等で活躍している。
 宇奈月7:11発の関電専用車を利用すると阿曽原に9:20に着く。通常阿曽原から欅平までは4時間コースである。今回は宇奈月ナチュラリスト研究会の会員の内、新入会員男女25名で年齢も様々である。


水平歩道より阿曽原小屋を俯瞰する)

 今回の目的は、お客様に下の廊下を尋ねられたときに備えての勉強会である。従って写真を撮ったり、説明を聞いたりしながらの移動なので、かなりの時間を要す。研究会のメンバーは祝日,休日には欅平ビジターセンターに駐在し、黒部峡谷を訪れる人達に自然解説をしている。年に2、3回現地研修を行って自然現象や植生、歴史について学んでいる。
 
阿曽原からは阿曽原谷を渡って山腹を登って行く。きつい登りなのでゆっくり歩く。大きく崩れたガレ場上部を横切り一度下って水平歩道に出る。昨年と比べると登山道も整備されて歩きやすくなっている。ここから欅平までは高低差の少ない文字通りの水平な道が続く。黒部本流との行程差は200mぐらいあるので足元に十分注意して歩く。
 
1時間ほど歩くと水歩道は左に大きく曲がる。左に大滝を持つ折尾谷である。


(折尾谷大滝)

 折尾谷の堰堤内のトンネルを抜けて少し登ると今まで歩いてきた水平歩道がよく見える。


 
(水平歩道)

 再び山腹を大きく廻りこむと水平歩道のハイライトである通称「大太鼓」と呼ばれているとにでる。水平歩道は、切り立った岩盤のところは人が通れるほどの幅でくりぬいてあり先人達の自然への挑戦の思いが伝わり、苦難の末に作り上げた荷を運ぶための道である。
 ところがこの辺は岩盤が固いためか垂直な岩肌に大きなボルトを打ち込み、そこに丸太を這わせてある最もスリルが味わえるところである。河床まで300mは有にある。対岸の奥鐘山は白い花崗岩の岩肌を極彩色に染め、宗教的な荘厳な光を放っている。


(奥鐘山と大太鼓の入り口)

 ここまで来ると下流に欅平駅の建物が見え、時折駅の構内放送が聞こえてくる。もう欅平らが近いという安心感が出てくる。ところがここから長い。黒部の谷が幾重にも本流に流れ込んでいるのですべて巻かなければならないので、思わぬ時間が要す。
 
これらの谷の中で最も不気味なのは志合谷である。厳冬期には頻繁にホウ雪崩が起きる。黒部の谷のほとんどがホウ雪崩が起きるが、この谷の雪崩の破壊力は凄まじい。かつて工事用の宿舎を対岸まで吹き飛ばし、尊い命が奪われたところである。
 
この谷に随道ができてからは、水平歩道最大の難所を難無く通る事が出来る。ところがこの随道は電気がついていないので真っ暗闇で、しかも足元には冷たい水が川のように流れ、途中で大きくカーブしている。一人で通るのは大変勇気が要る。
 
かつて私は懐中電灯を忘れてしまい、壁を触りながら抜けたことがある。気が狂うような暗闇で貫けるのに約20分かかった。非常に怖い体験をした。懐中電灯(ヘッドランプ)は絶対に必要である。


(志合谷・谷の両岸に随道の出入り口がある)

  折尾谷あたりから、対岸の雄大な奥鐘山と対峙しなければならない。700mの一枚岩でクライマーのあこがれる岩壁である。水平歩道は狭いがワイヤーの手すりが延々と腰の高さで付いており、小さな谷には鉄板や丸太を渡してあるので安心感がある。
 
今まで奥鐘山の影になって見えなかった白馬三山が顔を出すと水平歩道の最終にさしかかる。送電線の鉄塔が目印である。ここから眺める後立山連峰の初冠雪を戴いた霊峰が素晴らしい。白馬岳、杓子岳、白馬鑓、旭岳、清水岳、天狗の頭、不帰キレット、唐松岳の雄姿が、祖母谷の切れ間から手が届くところに聳えている。上流には純白の鹿島槍が貴賓高く存在する。



 
欅平までのシジミ坂の急下降は高度差約200mで、しかも木の根っこが張り出した歩きにくい道で、最後の難所である。途中、小黒部の大崩壊地が見える。無事欅平駅に到着し先ずはビールで乾杯。この後の風呂が楽しみである。
 今年も水平歩道からの落下事故が2件続けてあった。足下に充分気をつけて余裕のある計画を立てなければならない。

                               

宇奈月ナチュラリスト研究会会員
宇奈月遭難対策協議会救助隊員
  延楽 専務取締役 濱田政利

これからも黒部の魅力を黒部通信で発信したいと思っております。


  黒部通信INDEX  TOPへ