| 黒部通信 VOL.2 |
| 営業最終日のトロッコ電車 |
(1999年11月30日小雨・雪) 黒部峡谷鉄道の営業は今年も11月30日で終わった。この時期には沿線のどこかで雪景色が見れる。運が良ければ雪が舞い落ちる峡谷美を楽しむことができる。 私は晩秋の黒部峡谷が好きで、毎年トロッコ電車の営業最終日に、峡谷探勝を楽しんでいる。こんなに感動的な自然美に出会える時期に、なぜ観光客が少ないのか不思議である。毎年私だけの黒部峡谷にしていいのだろうかとその独占欲に憎悪すら感じる。 自然の気に包まれた静寂な黒部の谷をトッロコ電車が進む。宇奈月を出て先ず目に入るのは宇奈月ダムである。昭和54年4月に着工し、20年経て初めて今年の10月に水が入った。
黒薙あたりから気温が一段と下がる。黒部川最大の支流である黒薙川が造り出した峡谷は、いまだ人を容易に寄せつけない。黒薙温泉にはひなびた宿が一軒ある。今日が店じまいなのか作業員達があわただしく電車から下りる。宇奈月温泉の源泉である秘湯黒薙温泉は、駅から徒歩で15分の道程である。河原に作られた大きな露天風呂は大自然を充分満喫できるため常連客が多い。 黒薙を出発するとすぐに沿線随一の景勝地、後曳鉄橋を渡る。この上流には昭和の初めにかけられた水路橋が走っている。峡谷の構築物は長年の風雪に耐えながら見事に自然に溶け込んでいる。高邁な峡の急峻な岩壁には北五葉やツガの木が根を張って、洗礼された峡谷美を造り上げている。 稜線の針葉樹は雪をいただき白と深緑の見事なコントラストを呈し、かたや葉をすっかり落としたブナやミズナラなどの落葉樹は冬芽を出す準備をして、薄紫色に輝いている。ここでは木々の絶妙な住み分けが出来ているようだ。 黒薙から笹平を過ぎると、出し平ダムによって出来た湖が出現し、出し六峰が湖面に映し出される。出し六峰は峰が6つあるところから名づけられた急峻な連山である。豪雨の時は6本の沢が滝になるというが、私はその真の雄姿をいまだ見たことが無い。とにかく絵になる山である。特に雨の日の雲がたなびく様は深山の幽玄さを一層深める。今回は尖った頂上付近は薄っすらと雪化粧をし、黒く輝く岩肌は黒部の重鎮にふさわしい。実はこの峰々は、谷が深いため、車窓から眺めるとあたかも連山のように見える、いわゆるだまし稜線である。黒部峡谷にはこの種の山が数多く存在している。 水墨画の世界に慕っていると切り立った岩壁が写る。ねずみ返しの岩壁である。雪が全くつかない垂直の岩壁である。 猫又が近い。猫又周辺は平成7年の土石流により谷が非常に浅くなった。当時は一晩で10mも河床が上り、発電所に架かる赤い「目黒橋」が流出土砂で埋まってしまった。今尚河床を下げる災害復旧の工事が進められている。その災害の爪あと残す河床には黒部の清流がたゆまなく流れている。 ここからはカーブが多いため黒部峡谷を縦に眺めることが出来る。錦繍関上流には不帰谷から押し出されたおびただしい量の土砂があり、黒部川を塞いでしまっている。
鐘釣から黒部の流れがますます澄んでくる。限りなく澄みきったその流れは、時間が止まったかのように、静止して見える。まるでガラスで作られた川のように。切り立った岩肌には所々黄色や赤の照り葉が輝いている。 小屋平からは積雪が見られ、全く冬の様相を呈している。運良く欅平までは雪が舞い落ち紅葉もあわせて楽しむ事が出来る。トロッコ電車は暖房が効いているので、非常に心地よい。 いよいよ雪の欅平に到着である。欅平には、猿飛山荘、名剣温泉、祖母谷温泉の小屋があるが今は閉められて、観光客の姿が全く見られない。黒部川本流に架かる赤い奥鐘橋にも雪が積もり人影が全く無い。奥鐘橋から上流を望むと、切り立った山々は雪が降っているため白いベールに包まれ、おぼろげに黒部檜の幻影が映し出される。まさに自然が生み出す芸術作品の創作過程である。 直下には白馬水系の祖母谷の砂防堰堤が作り出した大滝が勢いよく黒部川本流に落ちている。そこには知られざる黒部峡谷の一面を垣間見る事が出来る。晩秋の黒部峡谷の魅力である。
|
||||||
宇奈月ナチュラリスト研究会会員 宇奈月遭難対策協議会救助隊員 延楽 専務取締役 濱田政利 壁紙制作:宇奈月国際会館セレネ、山谷さん |
||||||
|
|
| 黒部通信INDEX |